2017年7月18日火曜日

1日のはじまり

朝ごはんを食べながら、昨日話せなかったケアの話や今日訪問するお宅の気になっていることを話す。
話すことで整理ができることもあるし、それをわたしたちが解決するのではないこともあるので、状況に対して覚悟ができたり肝が据わったりする。


朝いちばんのケアに行く前に、事務所の前にベンチを出す。
早起きできたときには近くの大きな公園に散歩に行くので、その時に出す。
早く出しておかないと。朝早くからベンチに座れると思ってバス停まで歩いてきてくれる人がいるので。
最近は暑いから、近所のうどん屋さんが貸してくれている白くて大きなパラソルを出す。
加えて、国分寺市の「涼み処」として頂いていた団扇を出していたのだけど(商店会帳からもらった状差しに入れて)、最近ごっそりとなくなってしまったので、今は出していない。
ご近所さんに余っている団扇がないか聞いてみよう。
時間があれば植物に水をやりたいところだけど、ちょっと時間が遅れそうだから、あとでにさせてもらう。


「訪問中」の看板を出して、いざ出陣。
移動中、ご主人がひとりで奥様の介護をしているお宅の前を通る。
草が茂っていて中の様子は見えないけど、ゴミ出してるかな、自転車(ご主人の愛車)はあるかなと、ちらりと目をやる。

パン屋さんの運搬用の車を見かけたり、前の仕事仲間のお宅の前を通ったり(運がいいと、幼稚園のお迎えのバス待ちのタイミングと合う)、たまにばったり知り合いを見つけて「おーはーよー」と大きな声だけ出して通り過ぎる。


そして、お宅に到着。
「今日は暑いね~」
「今日はけっこう涼しいね」
「雨で大変だったでしょう」
ありふれた会話のようだけど、
その日の天気と、ご家族と、おばあちゃんと、わたしが組み合わさってできる、
その時だけのあいさつ。

「あ、この間、ご主人自転車になにかしてくださいました?」
「あぁ。たまには自転車にもあげないとね」とスプレーを吹きかける仕草をされる。チェーンにオイルを挿してくださったようだ。
「帰り道、すごく走りやすかった。ぜんぜん違くてびっくりして。」
「そうよ、お父さんはこうね、手先が器用だからね。」
「器用ですよね」


あぁ、今日が始まっている。

2017年7月10日月曜日

特別


このお仕事を始めたばかりの時は、「この方はずいぶん個性的だな~!」と思うことがあったような気がするけど、最近はそれが積み重なった結果「どの方も個性的」「どの方も特別だ!」と言葉そのまんまの感じで感じている。

 

金子みすゞやSMAPが歌っていたのを聞いた時には、ある種うつくしく清く正しいイメージがあった言葉だけど、今自分が感じているのはもっと土臭い、「同じってことはまったくないな」「ふつうなんてない。みんなが特別って、その通りだしそれしかない」と確信できる。

 

 

わたしの髪の毛は、すぐにぺしゃんとしてしまうし、小学生のころには「三つ編みパーマ」(夜寝るときに髪を三つ編みにして、朝ほどく)をやったこともあったけど、どんなにきつく三つ編みをしても学校に着くころにはストンと元の髪に戻っていた。

外国の子どものようなクリンクリンの、とまではいかなくても、くせ毛っていいなぁというあこがれはずっとずっとあって、いつだったか美容師さんにそう話した。

そしたら、「みんなくせ毛なんですよ。川上さん(旧姓です)の髪の毛だって癖ありますよ」ときっぱり言われた。「くせのない髪の毛なんてありません」と。

 

今だったらなるほどと思える。「うちはふつうでしょ。ふつうじゃないお宅にあこがれるわー」と訪問先で言われたら、きっとそう思うと思う。

 

 

この、みんな特別な「当り前」を生きているところに、今まで縁もゆかりもなかったわたしたちが出向いで、ケアの合間にお話してくださることを聞いていると、映画を観ているような気持ちになる。なんでみんなこんなドラマチックな人生を歩んでいるんだろう。

 

 

ある日。

Jさん、ケアマネの話だと、もうすぐグループホームに入られるかもしれない。もしかしたらこれが最後の訪問になるのかな、と思っていた日。

Jさんはいつもの話をしてくれた。いつもの話を初めてのように繰り返してくれる。決め台詞もあって、こちらとしては読み聞かせを楽しみに待つ子どものような気持ちで。

男の子が土手に仕掛けを作ってエビを釣ったという話の時。餌のフナムシを仕掛けの中に入れるシーンになったら突然、

「フナムシだよ。あんた触ったことある~?」とJさんが両手を水をすくうような形にして目の前に差し出してきた。

「ないない、ないです~!きゃ~!」と身体を避けて、2人で大笑い。

 

ひとつだけの人生の、ある場面に連れて行ってもらう、もしくはその物語を見せてもらうような時間は、何物にも代えがたい。

 

 

デイの車のお迎えが来て、スタッフの方と乗り込んで扉が閉まり。エアコンをかけている車の窓を開けて、スタッフの方が

「あのね~!Jさんがあなたのこと大好き~って!」

 

これにはたまげて、「わたしもです」とか言えばよかったのに「あら~」としか言えなかった。